2026.03.09

社会の基盤を蝕む「もう一つの真実」ーー陰謀論を信じる人が望む政治とは 投票行動、政治家好感度、価値観から探る(秦正樹氏の分析)

社会の基盤を蝕む「もう一つの真実」ーー陰謀論を信じる人が望む政治とは 投票行動、政治家好感度、価値観から探る(秦正樹氏の分析)

2025年7月の参議院選挙。チキラボでは東京都の有権者を対象にした調査から、東京都議選の参政党投票者が陰謀論を信じやすいことを明らかにしました。本記事は陰謀論と政治の結びつきを全国データから検証しています。陰謀論を信じる人と信じない人のあいだで、「言葉は通じるのに話が通じない」状況が広がっています。今、この分断はどのような違いとして現れるのでしょうか。投票行動や政治家好感度、価値観という観点からその分断線を探るべく、秦正樹氏に分析を依頼しました。

記事のポイント:陰謀論信念の高さは下記の傾向と正の相関がある

  • 参政党への投票確率の高さ
  • 既成政党の政治家を低く評価し、新興政党の政治家を高く評価する
  • 既存のメディアへの不信、自国第一主義、反リベラルという価値体系

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 近年、全世界中で「陰謀論」が社会や政治を大きく動かす原動力になっていると言われます。筆者が2022年に出版した『陰謀論―民主主義を揺るがすメカニズム』(中公新書)では、「日本はまだ陰謀論がそれほど社会を揺るがす事態にはなっていない」と記述していました。一方で、その後の2024年兵庫県知事選挙や2025年参院選における特定の政党の躍進の背景には、陰謀論への支持があったと指摘する声もあり、筆者自身、先ほどの記述に自信がなくなりつつもあります。そこで本記事では、チキラボが実施した「2025年参院選をめぐる有権者の意識調査」(参院選後に実施した3回目)注1)を利用して、2026年の今、日本において陰謀論がどのような「分断」をもたらしているのかを考えてみたいと思います。

日本人の陰謀論信奉

 拙著では、2021年8月に実施した調査にもとづいて、日本人のどれくらいが陰謀論を信じているかを検証しました。それからおよそ4年後にあたる2025年7月の調査を利用して、改めて現在の日本人の陰謀論信奉について検討します。チキラボ3回目調査では、眞嶋(2024)が開発した陰謀論信奉を測定する5つの設問(CMQ-J)が用意されています(なお、秦(2022)とは質問文が全く異なります)。具体的な質問文は以下のとおりです。

 以下のそれぞれの文章について、あなた自身の意見として、その内容がどの程度正しいと思うかを、以下のスケールにしたがって示してください(筆者注:以下の0%〜100%のうち1つを選択)。この問題に、客観的に見た正解や不正解はありませんので、あなた自身の個人的な意見をお聞かせください。

  1. 私は、大衆には決して知らされない、とても重大なことが世界で数多く起きていると思う。(con1)
  2. 私は、政治家はふつう、自分たちの意思決定の本当の動機を教えてはくれないと思う。(con2)
  3. 私は、政府当局が、すべての市民を厳重に監視していると思う。(con3)
  4. 私は、表面的には関連のない出来事が、しばしば秘密の活動の結果であると思う。(con4)
  5. 私は、政治的な決定に強い影響力を与える秘密の組織が存在すると思う。(con5)

選択肢:0% = 絶対にない/10% = 極めてあり得ない/20% = とてもあり得ない/30% =あり得ない/40% =ややあり得ない/50% =決められない/60% =ややあり得る/70% =あり得る/80% =とてもあり得る/90% =きわめてあり得る/100% = 確実にある

 これらの5つの設問の平均値を図1に示しました。設問ごとで結果はやや異なりますが、全体的に、多くの人の想像よりも高い値になっているのではないかと思います(ちなみに、この結果は眞嶋(2024)の調査結果と近似しています)。また眞嶋(2024;42)では、「実用上は、CMQ-J全項目を以て全般的な陰謀論信念の指標として用いることに支障はないと考えられる」と指摘しています。これに従い、本記事では、これら5つの変数を合成したスコア(標準化を行った)を「陰謀論信念」と操作的に定義して用います。

日本人の陰謀論信奉度のグラフ
陰謀論がもたらす分断

 一般的に、陰謀論を信じる人は、重要な政治的・社会的な出来事が起きた原因を、通説とは異なる「不可視な秘密の企み」に求める傾向にあります。こうした「陰謀論的世界観」を強く内面化することの問題の一つとして、しばしば、陰謀論を信じない人との円滑なコミュニケーションが難しくなる点があげられます。

 たとえば、友人や同僚が「実は、政府は、裏で牛耳っている秘密組織に操られているんだ!」という話を始めたら、あなたはどう反応するでしょうか?「この人はヤバそうだ、ちょっと距離を置こう」と考える人も少なくないはずです。このように陰謀論は認識論的な分断を生じさせ、その結果、政治や社会に関する前提の共有を難しくすることになります。

 とはいえ、陰謀論を信じる人との間で、世の中の全ての認識が共有できないというわけでもありません。仕事や日常生活に関することはもちろんのこと、政治や社会のことに関してであっても話が通じる内容もきっとあるはずです。つまり、陰謀論を強く信じている人と全く信じていない人の認識には、大きく異なる点とそうでない点があると考えられます。そこで以下では、陰謀論を強く信じる人と全く信じない人で、どのような意識や行動の異同点があるのかを検討してみます。

陰謀論信念と投票政党

 まずは、陰謀論信念と投票行動の関係を見てみましょう。以下では、多項ロジット分析と呼ばれる統計手法を利用し、性別・年齢・居住都道府県・教育程度・世帯収入・婚姻の有無・自身のイデオロギーといった要因の影響を取り除いた上で、陰謀論信念が2025年参院選での比例政党先の選択にどのような効果を持つのかを推定しました(図2-1)。 

陰謀論信念と各政党への投票行動の関係
 図2-1のY軸(縦軸)は各パネルに示した政党に投票する予測確率を示しています。X軸(各表の横軸)は高くなるほど(右に行くほど)陰謀論信念が高くなります。ここからまず、陰謀論信念の高さは、とくに参政党への投票確率の高さと関連していることがわかります。同時に、とくに自民党や立憲民主党に対する投票確率の低さとも関連しています。(れいわ新選組(n=37)、日本保守党(n=38)、チームみらい(n=12)、社民党(n=22)などの小規模政党の投票者の傾向も特徴的ではありますが、サンプルサイズが小さいのでここではあくまで参考値として見てください)。

 とりわけ、参政党は、陰謀論信念の高さと投票予測確率の関連がとても強いようです。具体的には、陰謀論に強く傾倒している人では、全く陰謀論を信じない人に比べて、参政党への投票確率が約35.2%ポイントも跳ね上がります(図2-2)。

参政党への投票と陰謀論信念の関係

 逆に、自民党への投票確率は26.2%ポイントほど低下しています。同じ保守系政党でも、陰謀論の影響という点では全く異なる効果があるようです(図2-3)。

陰謀論信念と自民党投票の関係

 それ以外の結果も含めて全体の結果を考察すると、どうやら、陰謀論信奉は、既成政党への投票を低下させ、特定の新興政党への支持を大きく押し上げる関係があるようです。

陰謀論信念と政治家への印象

 続いて検討するのは、政治家に対する好感度との関係です。陰謀論を強く信じる人と全くそうでない人の間で、特定の政治家への評価に違いは見られるのでしょうか。この点を検証するために、代表的な政治家・政治活動家として、石破茂・野田佳彦・玉木雄一郎・山本太郎・神谷宗幣・立花孝志・吉村洋文・田村智子・百田尚樹・福島みずほ・小泉進次郎・プーチン大統領を取り上げて、彼/彼女に強い反感がある場合は0、強い好感がある場合は10、中間は5として回答してもらいました。

 以下では、重回帰分析と呼ばれる統計手法で先ほどと同様の変数をコントロールして陰謀論信念の効果を推定した上で、その結果から、陰謀論信念が最も高い値(わかりやすく読めるよう、以下では「傾倒者」とします)または最も低い(以下では「拒絶者」とします)のときの好感度の予測値を計算しました(図3)。

陰謀論信念と政治家/政治活動家への好感度の関係

 図3各パネルの予測値のうち、赤色は傾倒者の予測値、青色は拒絶者の予測値、予測値の差分は傾倒者の予測値から拒絶者の予測値を減じたもの(限界効果)を示しています。上段4人の政治家(石破茂・野田佳彦・吉村洋文・小泉進次郎)は差分が負の方向を示しており、つまり、陰謀論信念の高さは、これらの政治家の評価を低下させる方向で差が見られます。逆に、中段の神谷宗幣・立花孝志・百田尚樹は、陰謀論信念が高いほど、これらの政治家への評価も高くなる(差分が正の方向)ようです。これら以外の政治家は、陰謀論信念と好感度との間に明瞭な関係は見られません。

 全体として、陰謀論信念は、既成政党の政治家を低く評価し、新興政党の政治家を高く評価する方向で関連しているといえます。さらに、保守である自民党・石破茂、リベラルである立憲民主党・野田佳彦、改革派と目される小泉進次郎や日本維新の会の吉村洋文で共通して同様の傾向がみられる点も特徴的です。

 つまり、陰謀論の信奉によって評価に差が生まれる政治家は、保守やリベラル、あるいは改革派かどうかといった軸で違いを見出すことはできませんでした。一方で、急進的・過激な思想を持つ、いわばアウトサイダーへの評価は陰謀論信念の高さとかなり強く関連していました。

 もちろん、これだけでは両者の因果関係を断定できませんが、通説や常識を嫌う性質がある陰謀論を信じる人ほど、既存のシステムや秩序を大きく変えようとする秩序破壊型の政治家を好むという関係はあり得るでしょう。つまり、陰謀論を信じるかどうかは、「秩序か破壊か」という政治家への評価軸の違いを生み出していると言えるでしょう。

陰謀論の信奉による制度や価値観評価の分断

 最後に、陰謀論信念の違いが、メディアや価値観などの制度・概念に対する評価にどのような差をもたらすのかについて検討します。以下では、先ほどと同様に、「マスメディア」「SNS」「日本人ファースト」「多様性」「多文化共生」「生活保護」に対する好感度について0〜10で回答してもらいました。この変数を利用して、図3と同じ方法で分析した結果が図4です。

陰謀論信念と価値観の関係

 図4より、マスメディアに対する評価(好感度)について、陰謀論の傾倒者と拒絶者との間でかなり大きな差が見られます。一方で、「SNS」に対する陰謀論信念の違いによる明確な差は見られません(統計的に有意でない)。これらの結果を比較すると、陰謀論を信じる人はテレビや新聞といった伝統的なメディアを嫌悪する一方、陰謀論を信じない人は伝統的なメディアを評価しているという形で、取り巻いている情報環境に分断があると言えそうです。

 また、陰謀論信念の違いによる差は、「日本人ファースト」という参政党のスローガンについて正の方向で大きな差が、逆に、リベラルな価値観を意味する多様性や多文化共生については負の方向で顕著な差が見られます(統計的な有意差は見られないものの、生活保護も負の方向です)。これらをまとめると、日本における陰謀論信奉は、単に「怪しい説を信じること」を超えて、既存のメディアへの不信、自国第一主義、そして反リベラルといった特定の価値体系と密接に結びついていることがわかります。

陰謀論がもたらす社会的リスク

 本記事では、投票行動や政治家や制度への意識に注目して、陰謀論がもたらす分断の様相を読み解いてきました。分析結果をまとめると、日本における陰謀論信念は、(ⅰ)参政党やれいわ新選組への投票確率を高め、(ⅱ)既存政党の政治家に対する嫌悪とアウトサイダー政治家に対する強い好感を生み出し、(ⅲ)マスメディアやリベラルな価値観を嫌悪する傾向にあることがわかりました。さらに、これらの変数については、陰謀論を信じる人と信じない人の認識ギャップがかなり顕著であり、まさに「分断」が生じています。

 陰謀論への傾倒は、単に「怪しい話を信じる」ということを超えて、政治や社会をどのように認識するかというその人自身の世界観や価値観にまで大きな影響を与えます。陰謀論がもたらす社会的分断は、まさにこうした世界観の違いに由来するともいえます。本記事の結果にもとづけば、陰謀論を信じる人が増えると、マスメディアが伝える「事実」(「真実」ではない)やリベラルな価値観が軽視されて、過激な思想がますます影響力を持つことになるでしょう。さらに言えば、陰謀論傾倒者は、リベラルな価値観を嫌うという意味では「保守」ライクに映るのですが、一方で、(戦後、自民党が作り上げてきた)保守が最も大事にする既存の社会秩序とかシステムの破壊を好むというのは皮肉なことです。いずれにせよ、陰謀論は社会における共通の目標や認識の分断を生み、社会の基盤を静かに蝕んでいく可能性があるという点で大きなリスクであるといえるでしょう。

 

注1)本調査は選挙前から継続して回答を得るパネル調査として実施されました、そのため、回を追うごとに回答の脱落(パネル脱落)が生じており、第3回調査の標本構成は実際の有権者の分布と乖離してしまいます。そこで本記事の分析では、2020年国勢調査による人口構成(性別・世代・居住都道府県)に加え、総務省公表の2025年参院選の比例区投票先および棄権率のデータを用い(投票参加および投票先の偏りを補正するため)、反復比例適合法(Iterative Proportional Fitting; IPF、レーキング法)と呼ばれる統計的手法によって、実際の有権者の構成に近づける重み付け(ウェイト)補正を行いました。本記事では、この補正に必要な変数に欠損がない有効回答者n=819を分析対象としています。なお、調査の詳細は、別途ウェブページを参照してください。

【引用文献】

眞嶋良全2024「日本語版陰謀論的心性質問票の開発と妥当性の検討」『社会心理学研究』第40巻, 第1号, pp.35-45.  https://doi.org/10.14966/jssp.2023-012