2026.07.17

指導に潜む「レクチュアル・ハラスメント」:教育現場における実態と課題

指導に潜む「レクチュアル・ハラスメント」:教育現場における実態と課題

教育現場での指導者による暴力やハラスメントの根絶は急務です。

近年、部活動指導者に対するガイドラインの整備や、子どもたちを性暴力から守るための法整備、そして日本版DBSの運用も開始が予定されています。

しかし、こうした対策の網に引っかかりにくいものに「レクチュアル・ハラスメント」があります。「レクチュアル・ハラスメント」とは、指導や教育の名目で行われるハラスメントを指します。

正当化されやすい「指導」という名の理不尽

美術大学という教育現場での事例をみてみましょう。表現の現場調査団の『表現の現場ハラスメント白書2021』には、以下のような事例が掲載されています。

教員たちが製作する作品を学生が一部担当することになり、私も参加した。現場中に手際が悪いということでその教員に頭を殴られた。(中略)他にも教員に他の学生スタッフをわざと競争させたり比べるような言動が多く、ストレスを感じた。(20代、女性、美大生)

美大在学中、課題の提出フォーマットについての明確な説明がなされておらず、教授の意図するフォーマットから逸れたものを提出した生徒が多々いたにもかかわらず、講評中に私だけ、大きな声で怒鳴られ、提出した作品を見てもらえなかった。(10代、女性、美大生)

殴ることや大声で怒鳴ること、一部の人を貶め晒すような行為を指導者が行うことは不適切な指導です。しかし、指導や教育の名において、正当化されやすく、子どもたちをコントロールしやすくもなるため安易に使用されがちです。こうした指導の場が、理不尽行為の温床になりうるということを社会の共通認識として共有する必要があります。

部活動における「要領を得ない指導」の実態

ではレクチュアル・ハラスメントは、部活動という場ではどのくらい生じているのでしょうか。チキラボが「表現の現場調査団」と共同実施した調査データで確認しましょう。 これは、2023年10月に実施した「表現の現場」で働く人々を対象とした調査データです。参照するのは18歳〜20代の方の回答で、2010年代から2020年代前半に中学校・高校に在籍していた年代の方々です。このうち、中学校時代の部活動加入者(61名)および高校時代の部活動加入者(55名)についての回答結果を確認します。調査の詳細は、文末に記載しています。

指導者が活動目標を設定したり助言をすることは、教育的な行いです。しかし、調査した項目にあるように、活動目標の一方的押し付けや、受ける側にとって納得をもたらさない助言が続くことは、不適切な指導です。

表現者の中では、中学校でも高校でも、部活動の指導的立場の人から「一方的に高い目標を設定された」ことがある人が、一定程度存在することが明らかになりました。中学校部活動では「頻繁にあった」「たまにあった」を合計すると約4割強の方が経験しており、高校部活動では約3割です。

「要領をえない助言や指導を続けられた」経験は、中学校・高校ともに「頻繁にあった」「たまにあった」を合計して約3割です。

また「罵倒や暴力」は中学校部活動では「頻繁にあった」人が1割弱、「たまにあった」人が約3割、高校部活動では「頻繁にあった人」が約1割弱、「たまにあった」人が約2割強です。「罵倒や暴言」という比較的明確な不適切な指導も少なくない割合で発生してしまうのは、教育という名のもとに理不尽行為が行われやすい状況を反映しています。

表現者を対象にしたデータであるため、部活動全体の傾向を把握できるものではありませんが、指導者による理不尽行為が2010年代から2020年代前半に少なくない頻度で存在していたことは確認したい点です。

中学校部活 指導的立場の人からの理不尽行為

高校部活動 指導的立場の人からの理不尽行為

「指導のつもりだった」で済ませないために

「指導」の名のもとで理不尽行為がまかり通っていた背景の一つに、部活動の実質的な強制加入(特に中学校)があったと考えられます。部活動に何を求めるのか。生徒と部活動指導者との間で合意形成がなされないまま、生徒は部活動への加入を求められ、指導者に従う状態に置かれる。また、教員は部活動を「生活指導の場」ととらえる傾向にもあり、単なる技術の向上ではない様々な価値を部活動に含めてしまっていたことも、「要領をえない指導」が生まれる背景となっていたのかもしれません。

今後、部活動の地域移行が進むことで、加入する団体は生徒や保護者の選択に委ねられます。また、学校教育と切り離されていくことで、改めてその活動価値も再確認できる契機が生まれるのではないでしょうか。活動団体は、レクチュアリング・ハラスメントを生まないよう、活動目標や指導方針を参加者に対し事前に開示・説明することが求められます。

 

【調査概要ーー表現の現場ハラスメント調査】
  • 表現の現場調査団とチキラボによる共同調査
  • 2023年10月に実施
  • 「表現の現場」で現在活動している方々を対象。ここで「表現の現場」としたのは、「美術」、「演劇・パフォーマンス・ダンス」「映像・動画・映画」「デザイン」「音楽」「文芸・ジャーナリズム」「写真」「アニメーション」「ゲーム」「マンガ・イラスト」「建築」「服飾」「お笑い」「工芸・伝統芸能・伝統文化」のいずれかの分野。
  • 2023年10月の調査当時、表現活動を行なっており、表現活動での収入もある方を対象とした349ケースをこの記事では使用。
  • この調査では、そうした方々の中学校・高校時代の部活動、そして18歳までの習い事の経験の中で指導者および部員からのどのような理不尽行為をどのくらい経験したのかを調査している。

▼詳しくはこちら

https://www.hyogen-genba.com/

  • 調査結果を見ていただく際には、以下の点に注意が必要です。
    • 表現の現場で活動する方々の何らかの傾向性を反映している可能性があります。そのため、一般の傾向として数値を見ることはできません。
    • 主観的な経験頻度を回答してもらっています。そのため、正確な発生頻度を示すものではありません。