現在、高市陣営による「誹謗中傷動画疑惑」が注目を集めています。2025年の総裁選で対立候補の誹謗中傷動画を、そして2026年2月の衆院選でも野党の誹謗中傷動画を、高市陣営が外部に作成依頼していたのではないか、という疑惑です。
ところで、そもそも2026年2月の衆院選期間中、人々はどのくらいSNSで野党(中道改革連合)に関する動画に接触していたのでしょうか。
チキラボでは、衆院選期間中に実施した3回にわたる継続調査を実施。本調査はウェブ調査で日本の人口構成に合わせて地域・性別・年代を割付し、サンプリングしています。ただし、この記事で使用するデータは、3回の調査すべてに回答している方の915名分です。政治的な内容を中心とする本調査に継続参加したという点で、政治意識の高い方々にサンプルが偏っている可能性があることに注意してお読みください。
1回目(選挙戦序盤:1月27日-28日)と3回目(選挙戦終盤:2月8日-9日)の、「過去1週間ほどで、あなたは、以下のような動画をYouTubeなどの動画サイトやTikTok, Instagram, XなどのSNSで視聴または見かけたことはありましたか」という質問への回答結果から、選挙期間中のSNSでの動画接触率を確認します。SNSを使用していない方も回答をしており、その場合には「まったく見かけなかった/見なかった」を選択していると思われます。
選挙戦序盤から接触割合が高い中道改革連合「批判・否定動画」

今回の調査では、野党第1党の中道改革連合関連動画の主観的接触状況を調査しました。まず、「応援・評価する動画」を見かけた人の割合は、選挙戦序盤で「よく見かけた/見た」人は3.0%、「たまに見かけた/見た」人は9.3%しかおらず、選挙戦終盤に至ってもその割合はほぼ伸びていません。
のちほど確認する高市政権「応援・評価する動画」では、選挙戦序盤ですでに「よく見かけた/見た」人は選挙戦序盤が11.2%、「たまに見かけた/見た」人は16.8%であり、大きく水をあけられていたことがわかります。この差は選挙戦終盤でさらに大きくなっています。
対して、中道改革連合を「批判・否定する動画」は、「よく見かけた/見た」人の割合が、選挙戦序盤で12%、「たまに見かけた/見た」人の割合が14.6%となっています。
特に「よく見かけた/見た」割合は、後述する高市政権を批判・否定する動画の約2倍の12.0%となっています。選挙戦終盤にかけて、「たまに見かけた/見た」人の割合が少し増加していますが、「批判・否定する動画」に触れた人の割合は、概ね維持されています。
高市陣営による「野党中傷動画疑惑」の真相はどうであれ、選挙期間中に政党や候補者に関する批判や否定的動画が飛び交ったのは確かです。こうした発信が、多くの人の目に触れるSNSの状況を許容するのか。あるいは一定程度規制をし、流通する情報を精査するのか。これから問われるべき論点です。
「応援・評価する動画」を見た割合が増加した高市政権

高市政権に関連する動画への接触状況も確認しましょう。高市政権を「応援・評価する動画」は1回目から3回目にかけて「よく見かけた/見た」割合、「たまに見かけた/見た」割合ともに伸びており、合わせて28.0%から37.4%に増加してるのがわかります。
逆に、「批判・否定する動画」は、選挙戦序盤では「応援・評価する動画」と同程度見られていますが、 選挙戦終盤になってもそれほど増加はしておらず、「よく見かけた/見た」「たまに見かけた/見た」合わせて28.8%です。
「高市政権を応援・評価する動画」接触した人は「中道改革連合を批判・否定する動画」にも接触
では、「高市政権を応援・評価する動画」をよく見ている人は、「中道改革連合を批判・否定する動画」にも多く触れているといった重なりは確認できるのでしょうか。選挙戦序盤の第1回目調査データで確認します。
以下のグラフは、縦軸に「高市政権を応援・評価する動画」の接触頻度別のグループを並べ、それぞれのグループごとに、「中道改革連合を批判・否定する動画」への接触頻度を示したものです。

「高市政権を応援・評価する動画」をよく見ている人は、「中道改革連合を批判・否定する動画」も多く見ているという関連が、明確に確認できます。
さらに逆も確認しましょう。縦軸に「高市政権を批判・否定する動画」の接触頻度別のグループを並べ、それぞれのグループごとに、「中道改革連合を応援・評価する動画」への接触頻度を示したものです。

「高市政権を批判・否定する動画」を多く見ている人は、「中道改革連合を応援・評価する動画」も多く見ている、という関係も確認できますが、先ほどの「高市政権を応援・評価する動画」の接触頻度との関係ほど、極端ではない点も注目されます。
ちなみにグラフは省略しますが、「高市政権を応援・評価する動画」を多く見ている人は、「中道改革連合を応援・評価する動画」にも接触する割合が高まる傾向にありましたが、「中道改革連合を批判・否定する動画」接触との関連の方が明確です。
なお、これらの傾向は第3回調査のデータでもほぼ変わりませんでした。
以上の結果はいずれも、客観的な接触時間を計測した結果ではなく、主観的な接触頻度、つまり「肌感覚」での接触経験に基づく回答ではあります。さらにSNS空間の実際の動画流通量そのものを示すものではない点はご留意ください。
しかし、選挙戦序盤から、SNSでは、自民党高市政権にとっては有利な情報に触れる人が多かったというだけではなく、それと同時に中道改革連合にとって不利な情報にも触れるという非対称的な接触状況も生じており、その状況が選挙戦終盤にかけて維持・強化されていったという大まかな傾向が把握できます。
2026年2月の衆院選挙は自民党の圧勝となったことから、自民党・高市政権に好意的な有権者がそもそも多かったことが、こうした「高市政権を応援・評価する動画」に接触する人の割合を高めた要因とも考えられます。
同時に「中道改革連合の批判・否定動画」への接触も生じたのは、SNSでのアルゴリズムによって「中道改革連合の批判・否定動画」がリコメンドされた、自ら動画を検索して視聴した、など、さまざまな状況が考えられます。本データではそこまで判別することはできません。また、批判・否定動画には、純粋な政策批判動画も含まれている可能性にも注意が必要です。
SNSでの公正な情報環境整備のために
今回の継続調査から見えてきたのは、SNS上の実際の流通量こそ不明であるものの、政治関心の高い有権者の画面(タイムライン)において、特定陣営に有利な情報と他陣営に不利な情報が同時に届きやすい環境が生まれていたという実態です。
2026年5月に与野党が合意し、「選挙の公正性」を守るために、SNSの利用に関する規定を設けた公職選挙法と、情報流通プラットフォーム対処法の法改正が、今国会で動き出そうとしています。こうした動きを踏まえ、いかなる選挙空間を作り上げるべきなのか、正面からの議論が必要となるでしょう。