2025年7月20日に投開票が行われた参議院選挙。この短い選挙期間のあいだ、人々の意識はどれほど動いたのでしょうか。チキラボでは、有権者の変化を可視化するため、同じ対象者を繰り返し追う「パネル調査」を実施しました。
今回は、そのなかでも外国人の福祉制度の利用や、流入策などへの賛否に焦点を当てます。選挙終盤のわずか1週間で、誰がどのように態度を変えたのか―変化の背景を読み解きます。本記事のグラフには「ガンマ係数」という値を記載しています。これは、第2回調査と第3回調査の回答がどの程度関連しているかを示す指標です。グラフをご覧いただく際には、そのような目安としてご理解ください。
- 値が大きいほど、賛否の変動が小さい(=安定している)ことを意味します。
- 値が小さいほど、賛否の変動が大きいことを意味します。
- ガンマ係数は -1 から 1 の範囲を取ります。プラスは第2回目と第3回目の回答が一致する方向で関連することを示し、マイナスは第2回目と第3回目の回答が真逆になる方向で関連することを示します(が今回、マイナスの関連はありませんでした)。
「福祉制度の利用」を許容できるかどうかが分ける、外国人政策への評価
今回の調査では、外国人政策に関して10個の質問を行いました。第2回から第3回にかけて、賛否の変化が比較的大きかったのは下記の6つです。
- ヘイトスピーチの罰則化
- 来日外国人数の規制
- 定住支援
- 外国人の教育支援制度の利用
- 生活保護制度の利用
- 社会保険制度の利用
特に賛否の変動が大きかったものは、制度利用に関する内容です。「制度を利用すべきではない」に反対だった人が、1週間の間に「どちらともいえない」または「賛成派」に流れていく変化の方が、逆の変化(賛成からどちらともいえない・反対への変化)と比べて大きくなっています。
全体として、選挙中盤から終盤にかけて、外国人に対して厳しい態度が強化されていった様子が確認でき、わずか1週間の間に、日本社会における「反外国人」感情が増幅されたことが見てとれます。
ただし、ヘイトスピーチ規制に対する賛成割合では、「賛成から反対に転じた割合」は少なく、むしろ「反対から賛成に転じた割合」のほうが高くなっていました。
難民から観光客まで―外国人流入策への反対は固定化
一方で、下記の4つの外国人の流入増加につながる政策は、賛否の変動は比較的少なくなっており、反対派が高い割合で存在する傾向が固定化したといえます。
- 難民の受け入れ
- 観光客を増やす
- 労働者を増やす
- 留学生を増やす
誰が「外国人への生活保護制度の適用」に反対するのか?
どのような人が外国人政策に対して最終的に厳しい態度をとっていたのか。ここからは「外国人には、生活保護制度を適用すべきでない」に対する、第3回調査での賛否に注目して、分析結果を解説します。
現在、生活保護制度を利用されている外国籍の方は、生活保護利用者全体の約3%ほどです(注2)。しかし、2025年3月ごろから生活保護世帯数の3分の1が外国人であるというSNSでの多数の誤った投稿があり、選挙期間中には「外国人が生活保護制度を濫用している」という流言が広がってしまいました(注2)。
どの程度の人がこの誤情報によるイメージの影響を受けているかは本調査では測れていませんが、「生活保護を利用すべきでない」との意見に対しては、第2回・第3回目のいずれの調査時点でも、「適用すべきではない」という意見に賛同が集まる状況がありました。
さらに様々な要因との関連を知ることができる重回帰分析という手法で分析を進めたところ、第3回目調査時点でこの意見に賛同を示すことと関連していることがわかったのは、下記の9つの要因です。
- 年齢が若い
- 未婚である
- 自分自身を保守と位置付ける人である
- 新聞を普段よく読んでいる
- TikTokを普段よく見ている
- 長時間働いている
- 外国人に対する脅威を感じている人
- 選挙戦終盤にYouTubeで選挙情報に接触していた時間が長い人
- 日本人ファーストへの感情温度が高い人
以上の要因は関連が非常に小さいものもあるので、このことに当てはまる人がすなわち生活保護に反対する人ではありません。
しかし、この中で「外国人に脅威を感じている」ことの影響は比較的強いものでした。外国人に脅威を抱いている人は、「外国人には生活保護制度を適用すべきではない」に対しても賛成する傾向が比較的強く見られます。
外国人が脅威的な存在に映る人と、そうでない人がいる。その差は何か。今回の分析は、YouTubeやTikTokとの接触度、労働時間の長さなど、限られた項目に絞ったものであるため、さらなる調査が必要です。
「脅威」を利用した支持拡大の手法に注意
ある集団を「脅威」として強調することで、特定の政策や政党の支持を高める手法があります。こうしたアプローチを誰が用い、誰が加担しているのか。今後の選挙においても、引き続き注意深く見ていく必要があります。
出典・参考
注1:生活保護受給世帯に占める「世帯主が日本国籍を有しない被保護実世帯数」は厚生労働省の『生活保護の被保護者調査』2025年6月データによれば2.9%(被保護総世帯数1,645,202、世帯主が外国籍の被保護世帯数47,161)。https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450312&tstat=000001229625&cycle=1&year=20251&month=12040606&tclass1=000001229626&tclass2=000001229628&result_back=1&tclass3val=0
注2:ファクトチェックセンター2025.7.14配信「生活保護世帯数の33%が外国人世帯? 根拠の数字に誤り【#参院選ファクトチェック】」https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/false-foreigners-welfare-33percent/