2026年6月22日
放送業界横断調査の要望 関係団体の回答結果
東京大学大学院 情報学環 教授・田中東子研究室
一般社団法人社会調査支援機構チキラボ
東京大学・チキラボ調査を踏まえた要望書の送付
東京大学大学院 情報学環 教授・田中東子研究室と一般社団法人社会調査支援機構チキラボ(以下、チキラボ)では、放送局で働いた経験のある方に対する労働環境調査を実施し、その結果を2026年3月3日に記者会見にて公表をしました。
放送業界の労働環境調査 記者会見(2026/3/3)発表資料
放送業界の労働環境調査 報告書(詳報版)reaserch-result/1400/
調査には183名の方が回答。セクシュアルハラスメントや性暴力、パワーハラスメントや理不尽な職場環境などの状況を調査した結果、女性回答者の4割が性的誘いを受け、約1割は不同意性交を含む重大被害を経験するなど、深刻な被害が存在することが明らかになりました。被害は1980年代から2020年代まで広く報告され、こうした被害が長い期間、業界に根付いているものであり、そして現在進行形の問題でもあることが浮き彫りになりました。
これらの結果を受け、民放各社、NHK、民放連に要望書を送付。
以下2点を要望しました。
- 関係団体が連携・主導し、放送業界横断的な調査を実施すること
- 横断的調査の結果に基づき、業界内に共通するハラスメント発生スポットやリスクの洗い出しを行い、各社の取り組みを後押しできる標準化した研修内容を作ること
送付先
- 一般社団法人民間放送連盟
- 日本放送協会
- 日本テレビ放送網株式会社
- 株式会社 TBSテレビ
- 株式会社テレビ朝日
- 株式会社フジテレビジョン
- 株式会社テレビ東京
要望書送付に至るまでの経緯
本要望書を送付するに至るまでの、関連する経緯を以下に記します。
- 2023年3月、ジャニー喜多川氏による大勢の少年たちへの性加害が明るみに。
- NHK、民放各社は独自の調査報道を行ったが、業界横断調査とならず。
- チキラボは、2023年11月8日、民放連、NHK等、音楽、メディア、雑誌、映画関連業界に業界横断調査を主体的に行うよう要望。要望に対する各団体からの返答状況は、無回答、もしくは消極的な回答のみにとどまった。
- 2023年11月、チキラボ独自でウェブ公募型の調査を実施。当時はジャニーズ事務所という大手芸能事務所から放送局への不当な制約・圧力があったことにも注目が集まっていたため、そうした「忖度構造」にも焦点を絞る形で調査を実施。2024年2月14日に記者会見で結果を公表。
- しかしその後も、度重なる芸能業界、放送業界の問題が発覚。
- 2024年3月のフジテレビと中居氏の問題で第三者委員会報告書が発表された。
- 2024年12月「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査」(2024年12月)公表→実演家・芸能事務所・放送事業者・スポンサーのパワーバランスにおける取引上の不公正を業界横断調査。そのうえで2025年9月に取引適正化に向けた指針が公表される。
- 民放連の呼びかけでフジテレビ問題に関わり、各放送局に自主調査を要請。198社の調査結果を民放連が取りまとめて2025年6月11日に公表。「フジテレビと同様の事案(番組出演者や出演者の関係者との会合において、「性暴力」による重大な人権侵害を起こした事案)」はなし、との結果。
- これらの自主調査は、調査項目・調査方法・調査範囲が統一されておらず、回答者に不利益が出ないように十分配慮された設計でない場合も。
- 2025年9月民放連が「民放事業者の人権尊重・コンプライアンスに関するアンケート調査」を公表。
- 各社の人権方針や、研修体制などの状況、放送局外部の利害関係者からのカスタマーハラスメントの被害実態(自由記述)と対策について放送局横断調査
- 2026年3月3日東京大学・チキラボ「放送局の労働環境調査」結果公表
以上まとめたように、2026年3月3日の時点で放送局の従業員や関係者を対象にした、性暴力やセクハラ、パワハラに関する包括的な調査内容で、同一項目・方法・範囲による、回答者の不利益にならない配慮を行った放送業界横断的な調査は、残念ながら実施されていませんでした。
要望書に対する回答
そこでチキラボでは3月3日の調査結果をふまえて、改めて関連団体に要望書を送付し、2026年3月10日〜4月15日に回答を求めました。
回答は、送付したすべての放送局・団体からいただけました。回答へのご協力に改めて感謝申し上げます。
民放連の回答
まず民放連の回答です。民放連は民間放送事業者に対する横断調査を実施できる可能性が最も期待される立場です。民放連からは、民放連としてこれまで問題に向き合ってきた経緯や、様々な対策を講じられてきたことがわかるご回答をいただきました。
ご回答では、民放連として、会員207社に対してハラスメントや人権侵害は経営の最優先事項として対応してほしいと繰り返しお願いしてきた経緯や、2025年5月に「民放連・緊急人権アクション」を決定し、民間事業者に向けた講演やガイドブック作りや人権への基本姿勢の改定、民放事業者の人権尊重・コンプライアンスに関するアンケート調査の実施に取り組んできたこと、そして民間事業者への自主調査の呼びかけと結果の取りまとめを行ってきたこと、民放連内に設置した委員会で議論を継続している状況などを記載いただいています。また、様々な情報発信を重ねることで、業界全体への波及にも取り組んでいるとのことでした。
しかしながら、「横断調査に対する具体的検討」をみせる言及はありませんでした。
各放送局の回答
各放送局の回答からはいずれも、自社でできる範囲での積極的な対応が行われている様子が記載されていました。その一つとして、6社すべてが「人権デュー・デリジェンス」や社内での自主調査の実施に言及しており、社内での定期的な調査の持続体制は整備されつつあることがわかりました。
しかし、基本的には自社内での取り組みや、自社と取引関係にあるスタッフに対する取り組みに関する記述に限られており、「横断調査に対する具体的検討」をみせる言及はありませんでした。
各放送局としては、社を越えた横断調査といったアクションをリードする立場にまで踏み出すことは、難しい様子がうかがえます。唯一、横断調査へ言及をしたNHKの回答では「貴研究室・支援機構が指摘されている業界の風土や慣行については、NHKとしても課題意識を有しています」とご回答いただきましたが、まずは協会内での取り組みを優先させている、という事情が記されていました。
要望書に対する回答を受けて
各放送局・民放連のご担当者の皆様には、ご回答へのご協力、改めて感謝申し上げます。
現在行われている取り組みについては、一過性のものにするのではなく、業界・社内体制として定着するよう、引き続き推進いただけますよう、お願い申し上げます。
一方、各社の個別の対応にとどまってしまっては、「個別問題のモグラ叩き」になりかねません。各社が身を置く業界全体を安全地帯に変えていくことも、同時に行っていく必要があります。新聞業界でも、日本新聞協会が主導してジェンダーによる不平等を可視化するような働き方に関する横断調査が実施され、その結果が2026年4月23日に公表されています。
業界全体として、放送局の違いとは別に、共通して存在する関係性のあり方や状況の、どこに・どのような状況にハラスメントや暴力のリスクが生じやすいかを把握する必要があります。そのために同じ項目・指標で放送局横断的に調査することが不可欠です。
各放送局も自社内での取り組みだけではなく、自社での安全性を高めるためにも、業界全体の横断調査の実施に声をあげていただきたいです。東京大学大学院 情報学環 教授・田中東子研究室とチキラボは、もし呼びかけがあれば、第三者として調査のサポートを行いたいと考えています。改めて各社や民放連に対し、検討を呼びかけたいと思います。