1990年ごろにあった「茶髪・ピアス論争」をご存知の方はどのくらいいるでしょうか。髪を染め、ピアスを身につける若者に対して向けられた否定的な雰囲気を読み取れる言葉や感想を、当時の新聞記事からいくつか探してみました。
- (男性ファッションに詳しい服飾評論家)「いくら女性の男性化、男性の女性化といわれても、男性のピアスは極めて特殊。オフィスでは絶対にやってはいけません。(中略)」と指摘している。(毎日新聞・東京朝刊・家庭面 1991年2月27日「[シチュエーション91]男のピアス「オフィスでOK」は21世紀?」
- 「娘は私立の女子高時代、生まれつき髪が赤いにもかかわらず、先生の呼び出しを受けて「染めているのか !」と怒鳴られ、泣いて帰宅した。「悔しい」と泣いていた姿が忘れられない。」(毎日新聞・地方版/東京 1995年3月20日 「[私はこう思う]テーマ 茶髪」)
- 「先日孫たちと中央線に乗った時、ある駅から髪の毛をガチガチに逆立てて化粧も衣装もケバケバしい男女の一団が乗り込んで来た。驚いた孫たちは「怖いよー」と私にしがみついた。(中略)どういう神経をしているのだろう。そんな支度は行った先でしてもよいのでは。それとも、人に見せたいのか、驚かせたいのか。一時的な病かもしれませんね。」(毎日新聞・地方版/東京 1995年3月20日 「[私はこう思う]テーマ 茶髪」)
2026年10月1日に改正労働施策総合推進法が施行されました。これによりカスタマーハラスメント対策がすべての事業主に対し義務付けられます。客の過剰な要求から労働者を守るのはもちろん、過剰な接客態度を見直したり、自由な服装・容姿を肯定する動きも、労働者の働き方の向上や、人権という観点から、浸透しつつあります。お店でも、客からのクレームを予防する目的で、「本店は従業員の自由な服装を奨励しています」といったメッセージを記したポスターを見かけることも少なくありません。しかし、前述の通り、30年前には髪染めやピアス、自由な服装・容貌が「異常な行動」という眼差しを向けられることが珍しくありませんでした。
では現在、働く場面での自由な服装や容貌、振る舞い方への許容範囲はどうなっているのでしょうか。
本記事ではチキラボの定期調査「社会抑うつ度調査」の2025年10月調査から、特にスーパーやコンビニ、小売店での接客場面を対象に、店員の自由な服装・容貌・振る舞いの許容のラインがどこにあるのか、許容範囲が狭い人にはどのような特徴があるのかを、分析しました。
調査の方法や、結果全体の概要については、こちらからご覧いただけます。
全体的に自由な接客は許容傾向
今回の調査ではスーパーやコンビニ、小売店などにおける店員の接客や見た目、服装などについて抱く抵抗感について、「まったく抵抗はない」「あまり抵抗はない」「すこし抵抗がある」「かなり抵抗がある」の中から回答を選択してもらいました。まずは、回答の分布を確認します。
n1000-注)「Qスーパーやコンビニ、小売店等で、次のような接客を受けたり、次のような店員を見かけたとしたら、あなたはどの程度抵抗-8-640x360.png)
最も抵抗感が少なかったのが、「カスタマーハラスメントの注意喚起をするポスターなどを店内で見かける」です。ちなみに、同じ調査で「カスタマーハラスメント」という言葉の認知度も調べています。58.8%が「知っていて説明もできる」、25.9%が「聞いたことがある」と回答しており、意味も含めて言葉が広く浸透しています。そのためか、こうした注意喚起はほとんど抵抗感なく受け入れられていることがわかります。
また、髪の毛を染めている、ピアスを開けている、自由な服装といった容姿・見た目にかかわること、店員の名札なし・名前非表示、椅子に座ってレジ打ちをするという接客態度の変化についても、かなり受容されていることがうかがえます。
一方で、実際にカスタマーハラスメントとして注意喚起を受けることや、お客がいない時にスマートフォンを見る、店員同士でおしゃべりをすることに対しては6割以上の人が抵抗感を持っています。
特に、見た目においては、毛染めやピアスなどの項目は許容度が高かったのに対し、タトゥーだけは抵抗感が高く、負の印象を持たれ続けていることがわかります。「かなり抵抗がある」は特に高く、31.5%です。近年、日本でタトゥーをしている人をみることは増えてきています。この日本人におけるタトゥーへの認識は、別の記事で紹介します。
自分への厳しさを、店員の接客に投影?
では、どのような人が店員の自由な振る舞いに対し、抵抗感をいだきやすいのでしょうか。見た目や振る舞い方に関する以下の項目の回答の平均値を使って、年代差と個人のメンタルヘルスの状況や性格特性、不公平感覚などの心理的な要因に着目して分析をします。
- お客がいない時にスマートフォンをみている
- 店員同士がおしゃべりをしている
- 自由な服装をしている
- 髪の毛を染めている
- ピアスを開けている
- タトゥーを入れている
n1000-注)「Qスーパーやコンビニ、小売店等で、次のような接客を受けたり、次のような店員を見かけたとしたら、あなたはどの程度抵抗-9-640x360.png)
ここでは階層的重回帰分析の結果の表のみ掲載しておりますが、くわしい分析手順は文末をご覧ください。
分析の結果、分析した要因の中では次の2つが抵抗感の高さにつながりやすいことがわかりました。
- 年齢が高い
- ビッグファイブ性格特性の一つである「勤勉性」が高い
勤勉性は、計画性や責任感の高さ、規律正しさといった特徴に関連する性格特性です(Robins, R. W., Lawson, K. M., & Benet-Martínez, V. (2025))。他にも、主観的な社会階層と不安感の高さもこの抵抗感に影響している可能性が示唆されました。
その「抵抗感」はどこからきて誰に向かうか?
冒頭で例示したような、見た目に対する許容度が低い時代を過ごした年代と比較して、若い人ほど許容度が広がっている様子が確認できました。また、勤勉性が高いと、許容度が低くなるという関連からは、自分に厳しい人が他人にも厳しいといった関係が浮かび上がります。
社会全体では、自由な接客態度への許容度はかなり広がっていると言えるでしょう。ただし、まだ抵抗感が高いと感じる振る舞いもあります。自身が客側にたったときに抱く「抵抗感」が労働者の働きやすさや労働環境を損なってはいないか。カスタマーハラスメントという言葉をきっかけに、自分が持つ「抵抗感」がどこからきてどこに向かっていくのかに思い至ることも必要でしょう。
【引用文献】
Robins, R. W., Lawson, K. M., & Benet-Martínez, V. (2025). Personality. In D. T. Gilbert, S. T. Fiske, E. J. Finkel, & W. B. Mendes (Eds.), The handbook of social psychology (6th ed.). Situational Press. https://doi.org/10.70400/MGXP2999
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具体的な分析手順解説
分析には以下の変数を使用した。



従属変数「店員の自由なふるまいへの抵抗感」は、以下の回答の平均値を使用。
- お客がいない時にスマートフォンをみている
- 店員同士がおしゃべりをしている
- 自由な服装をしている
- 髪の毛を染めている
- ピアスを開けている
- タトゥーを入れている
最初に、属性変数(性別、年齢、最終学歴、主観的健康、現在の暮らし向き、主観的な経済階層)、精神的健康(抑うつ感・不安感・孤独感・人生満足感)、不公平感(社会的不公平感・個人的不公平感)および性格特性(外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性)と、「店員の自由なふるまいへの抵抗感」に対してスピアマンの順位相関分析を実施。
その結果、「店員の自由なふるまいへの抵抗感」と年齢の間に中程度の有意な正の相関(rs = .33, p < .01)、勤勉性との間に弱い有意な正の相関(rs = .18, p < .01)が示された。また、主観的な経済階層(rs = .05, p = .09)、社会的不公平感(rs = .06, p = .06)、協調性(rs = .05, p = .10)との間に正の有意傾向が認められた。
ただし、性別と年齢を統制して再度スピアマンの順位相関分析を実施したところ、学歴や精神的健康尺度、不公平感との間に効果量は小さいが有意な相関が示されたことから、より精緻に各変数の効果を検討するため、説明変数を段階的に投入して説明率の増加量を確認できる階層的重回帰分析を実施。
スピアマンの順位相関分析の結果と変数間の多重共線性を考慮し、Step1では属性変数として性別、年齢、最終学歴、主観的な経済階層、Step2では精神的健康変数として不安感、不公平感(社会的不公平感と個人的不公平感の平均得点)、Step3では性格特性変数(外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性)を説明変数として投入。結果の表は上記でに示したものである。
属性変数のみのStep1のモデルは有意で(R² = .110, Adjusted R² = .106, F(4, 995) = 30.66, p < .001)、年齢および最終学歴が有意な正の効果を示した。
精神的健康尺度として不安感と不公平感を投入したStep2のモデルも有意だった(R² = .120, Adjusted R² = .115, F(6, 993) = 22.67, p < .001)。さらに主観的な経済階層と不安感の有意な正の効果が示され、また、投入前からの説明率の増加は有意だった(ΔR² = .011, p < .05)。
性格特性を投入したStep3のモデルも有意だった(R² = .135, Adjusted R² = .125, F(11, 988) = 13.99, p < .001)。Step3においては、勤勉性の有意な正の効果が示された一方、Step2 までは有意であった学歴の効果が非有意となり、主観的な経済階層と不安感の効果も有意傾向となった。また、説明率の増加は有意だった(ΔR² = .014, p < .05)。
最終モデルにおいては、年齢(β = .325, p < .01)および勤勉性(β = .155, p < .01)が有意な正の効果を示し、不安感(β = .072, p < .10)および主観的な経済階層(β = .059, p < .10)は有意傾向を示した。
これらの結果から、年齢が高いほど、またビッグファイブ性格特性の一つである「勤勉性」が高いほど、店員の自由度の高い接客態度に対する抵抗感が高いことがわかった。また、主観的な経済階層と不安感の高さもこの抵抗感に影響している可能性が示唆された。