2026.01.05

「刺さる」がインフレする政治空間──政治家の言葉の強さに「有能さ」を見出すのは誰か 【秦正樹氏(大阪経済大学情報社会学部准教授)寄稿】 参議院選挙2025を「科学」する 番外編)(修正あり)

「刺さる」がインフレする政治空間──政治家の言葉の強さに「有能さ」を見出すのは誰か 【秦正樹氏(大阪経済大学情報社会学部准教授)寄稿】 参議院選挙2025を「科学」する 番外編)(修正あり)

人々は政治家のどのような言動を「有能」と感じるのでしょうか。そして「言葉が強い政治家」が「刺さる」のは誰なのでしょう。

チキラボでは、「参院選をめぐる有権者の意識調査」の分析を秦正樹氏(大阪経済大学情報社会学部准教授)に依頼。正樹氏の分析から、政治家の「有能さ」に対する人々の志向性ーー「誤解を恐れず強い言葉で論破することやルールよりも信念を貫く能力」を重視する「直情型」と、「社会問題を説明する能力や幅広い合意を得る能力」を重視する「合意型」の志向性が明らかに。秦氏の記事をお届けします。

【分析結果のポイント】

  • 直情型の言動を「有能」と評価する傾向が強いのは、自民党や国民民主党、参政党、NHK党といった保守系の政党投票層
  • 合意型の言動を「非有能」、直情型の言動を「有能」と評価する傾向にあるのは若年層
  • 映像メディアの接触頻度が高いと直情型を評価する傾向に

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2025年参院選の結果は、既存政党への不信感と新興政党への期待感を浮き彫りにしました。とくに参政党の神谷宗幣氏やNHK党の立花孝志氏などが代表的なように、炎上を恐れることなく、有権者に「刺さる」言葉で訴える政治家が一定の人気を博しています。こうした変化は、まさに「政治家に求める素養」が転換しつつあることを示唆するものです。

 そこで本記事では、私たちが政治家に何を求めているかという観点から、党派性、世代、メディア利用との関係について、チキラボによる「2025年参院選をめぐる有権者の意識調査」ーー参院選期間中、同一対象者に対して行った3回の継続調査を利用して考えてみたいと思います。

どういう政治家が「有能」なのか?

言うまでもなく、私たちが望む代表者は「有能な政治家」であってほしいはずです。しかし、政治家のどのような点(能力)を「有能」と考えるかは様々な考え方があります。

たとえば、自身の信念をがむしゃらに貫く政治家が望ましいと思う人もいるでしょうし、逆に、自分の考えに固執せず様々な意見を聞いて臨機応変に対応できる政治家が望ましいと思う人もいるでしょう。そこでチキラボ調査(第一回)では、政治家の有能さに関して、次に示すような17つの様々な側面について尋ねてみました。

あなたは次のような言動ができる政治家をどの程度、有能だと思いますか。

  1. 社会問題をわかりやすく整理して説明できる(item1)
  2. 抽象的な議論を具体的な事例で説明できる(item2)
  3. 誤解を生むことがあっても、思いをそのまま言葉にできる(item3)
  4. 強い言い回しで人々の印象に残る話し方をする(item4)
  5. 有権者の思いをうまく政治に反映できる(item5)
  6. 弱者やマイノリティへの共感を重視している(item6)
  7. 多数派の意見を尊重している(item7)
  8. 内容のよしあしにかかわらず相手を論破して聴衆に正当性をアピールする(item8)
  9. 新しいメディア(SNSや動画など)を巧みに活用する(item9)
  10. 政策などではなく、その人の個性や雰囲気によって他の政治家と差別化できる(item10)
  11. 法や社会的ルールの抜け道を見つけ、利用することができる(item11)
  12. 正しいと信じることのためにはルールを破ってでも行動する(item12)
  13. 仁義や情を犠牲にしてでも、自分の成功を求めて行動する(item13)
  14. 時間がかかっても、合意や手続きを重んじる(item14)
  15. 専門家の力を借りることができる(item15)
  16. 特定の関係者に偏らずに幅広い支援者を得ることができる(item16)
  17. 日本に有利な条件を引き出すため他国に圧力をかけられる(item17)

これら17の内容に対して、「まったく有能だと思わない (1)」「あまり有能だと思わない (2)」「どちらともいえない (3)」「少し有能だと思う (4)」「とても有能だと思う (5)」「答えたくない (欠損値とした)」で回答してもらいました。

全体の結果は図1のとおりです。全体として特に重視されている(有能だと思うが5割を超える)項目は、「社会問題をわかりやすく整理して説明できる(item1)」や「抽象的な議論を具体的な事例で説明できる(item2)」「有権者の思いをうまく政治に反映できる(item5)」「時間がかかっても、合意や手続きを重んじる(item14)」「専門家の力を借りることができる(item15)」「特定の関係者に偏らずに幅広い支援者を得ることができる(item16)」のようです。

一方で、政策よりも個性を重視したり(item10)、ルールの抜け道を見つけ出して利用したり(item11)、ルールを多少無視してでも信念を貫いたりする(item12)政治家を有能だと考える人も一定数存在しており、政治家に求める要素は非常に多様であることもわかります。

政治家の有能さに関する2つのタイプ

次に、政治家の有能さに関する志向性を分類してみたいと思います。以下では、因子分析と呼ばれる方法を利用して、先ほどの17つの設問への回答の背景にある人々が潜在的に有する共通した志向性を抽出することを試みました。因子分析の結果は図2のとおりです。

図2にある因子負荷量とは、「有能さの評価の志向性(因子)」が各質問項目に与えている影響(相関)の強さを表しています。値が正の方向で大きいほどその志向性と強く結びついており、逆にマイナスであれば負の関連があることを示しています。今回は、多くの研究で基準とされている0.4以上の値をとる項目(赤線の項目)の共通点から2つの志向性を解釈しています。

因子分析の結果、「政治家の有能さ」の基準には、大きく分けて2つのタイプがあることがわかります。1つ目のタイプは、item1・item2・item5・item6・item14・item15・item16の値(因子負荷量)が高くなっています。これらの設問は、現存する社会的な問題を説明する能力や幅広い合意を得る能力を意味するものです。

そこでこのまとまりを「合意型」の政治家を有能だと考えるタイプだと捉えます。もう一つのタイプは、item3・item4・item8・item9・item10・item11・item12・item13の値(因子負荷量)が特徴的に高い傾向にあります。これらの設問は、誤解を恐れず強い言葉で論破する能力とかルールよりも信念を貫く能力を重視する内容です。

そこでこのまとまりを「直情型」の政治家を有能だと考えるタイプだと定義します。整理すると、世論における「有能な政治家」の基準は、議論を尽くして多くの声を政治に反映する能力を重んじる合意型タイプと、激しい言葉やルールを逸脱してでも自身の信念を貫こうとする正面突破型の直情型タイプがあると言えます。

2つのタイプと党派性

以上の分類を使って、党派性(どの政党を好ましいと考えるか)によって、望ましい政治家像が異なるのかについて検討してみましょう。以下では、図2の分析結果(因子得点を算出)にもとづいて、2025年参院選の投票先(比例区)ごとの層がどこに位置づけられるのかをマッピングしました(図3)。

図3のX軸は右に行くほど合意型志向が高くなり、Y軸も同様に上にいくほど直情型志向が高くなることを意味しています。まずX軸(合意型)に注目すると、ほとんどの政党の投票者は多かれ少なかれ合意型志向の方に寄っていることがわかります。一方で、共産党・公明党の投票者は、他党の投票者に比べると、相対的に合意型志向が低いようです。もっとも、政党投票者ごとの違いをより説明するのはY軸(直情型)の方です。自民党や国民民主党、参政党、NHK党といった保守系の政党投票層は激しい言葉を使ってでも一点突破するような直情型志向が高いようです。一方、立憲民主党や共産党、社民党といったリベラル系の政党投票層は直情型志向が相対的にかなり低いことがわかります。本分析は「炎上」そのものを分析しているわけではありませんが、保守政党投票者が炎上を恐れず強い言葉を放つ直情型政治家を好む傾向を鑑みると、むしろ炎上が支持獲得のアピール材料として機能しうる土壌が(一部の有権者層において)ある可能性を示唆しているといえるでしょう(注1)

2つのタイプと世代

同様に、世代と「政治家の有能さ」に関する考え方の関係についても検討してみました。図4をみると、世代によっても、望ましい政治家像に大きな違いがあることわかります。とくに若年層(20代〜30代)は、合意型が極端に低く、逆に直情型がかなり高い部分に位置しています。一方で、高齢層(60代や70代以上)は、合意型が比較的高く、直情型が低い箇所に位置しており、若年層と真逆のパターンが見られます。さらに年齢を経るごとに、合意型志向をより強め、直情型志向をより低下させるようです(注2)

とくに2025年参院選では、年長世代ほど自民党や立憲民主党といった既成政党に投票し、若年層は国民民主党や参政党といった新興政党により投票したことが明らかになっています。外国人に関する事実にもとづかない発言を繰り返して物議を醸した参政党や、同様に問題視された「奈良のシカ発言」の高市首相が若年層に強く支持されている理由の一つとして、「きれいごと」よりも「刺さる」言葉を発する政治家を望む若年層の志向性とマッチしている点が考えられます。

2つのタイプとメディア利用

最後に、選挙期間中に利用(接触)したメディアと「政治家の有能さ」に関する2つのタイプとの関連を検討してみました。チキラボ調査(選挙後の第3波調査)では、「過去1週間ほどで、以下のメディアや媒体などで、どのくらい選挙に関する情報に触れましたか。それぞれについて、あてはまる時間を選択してください。」という形で、テレビ、新聞、ラジオ、YouTube、YouTube以外の動画(Tiktokやリール動画など)、SNSの画像投稿、SNSの文字投稿、SNS以外のインターネット(選挙情報を掲載するwebサイト、ブログなど)、政党・候補者のポスター・宣伝車・街頭演説など、選挙に関連した職場・友人・家族などとの会話の頻度を尋ねています。

選択肢は「全く触れていない (1)」から「だいたい20時間以上 (8)」とした利用時間となっています。この設問を利用して、各メディアの利用頻度と「政治家の有能さ」に関する2つのタイプとの関連を、重回帰分析(性別・年齢・職業・婚姻の有無・教育程度をコントロール)によって検証してみました(図5)。

まず合意型と関連するメディアの種類を確認すると、SNSの文字投稿および知人との会話の2つで統計的に有意な関連が見られました。一方で、直情型と関連しているのは、テレビ・YouTube・ショート動画の3つでした。これらのメディアは、伝統的メディアとオンラインメディア(ソーシャルメディア)という違いを超えて「映像メディア」という点で共通しています。つまり、直情型の政治家を有能だと考える傾向は、映像メディアの利用頻度と強く関連しているといえます。もっとも、映像メディアと直情型政治家を求める傾向に親和性があることはわかりましたが、「映像メディアを利用するほど直情型の政治家を求めるようになる」のか「直情型の政治家を求めるほど、映像メディアをよく視聴する」のかという因果関係まではわからないということには注意してください。

変容する「有能な政治家」

本記事では、人々の「有能な政治家」に関する志向性をヒントにして、現代日本の政治社会の状況を読み解いてきました。分析結果をまとめると、政治家の「有能さ」には、言葉を尽くして説得したり国民の意見をよく代弁したりするといった能力の次元と、刺激的な言葉を使ってルールを多少破ってでも信念を達成する能力の次元の2つが存在することがわかりました。さらに、後者のタイプは2025年参院選で保守系政党に投票した人、若い人、映像メディアを好む人があてはまりやすいことも示されました。

こうしたマキャベリステックな政治家を望む声が高まる背景として、政治や日本社会の閉塞感の高まりがあげられるでしょう。現状を打破するためには手段を問わないという姿勢を見せる政治家を若年層が好んでいるわけですから、世代交代が進むほど、こうした政治家が増えていく可能性が高いと考えられます。

もちろん、政治家には、政策実現のために信念を貫く態度も求められるわけですが、同時に、多様な声を聞いて多くの人が納得できる民主的な意思決定とその説明能力も同時に求められるはずです。直情型の政治家が台頭する時代だからこそ、合意を積み重ねる政治の価値を改めて問い直す必要があるといえるでしょう。

 

修正

  • 図3・図4について、軸の幅を修正しました(2026年1月8日)。
  • (注1)図3の本文解説を、データに即してより厳密な表現に加筆・修正しました。図3直後の「図3のX軸は〜」から「可能性を示唆しているといえるでしょう(注2)。」までの文章を修正しました(2026年1月8日)。
  • (注2)図4の本文解説を、データに即してより厳密な表現に加筆・修正しました。「(注3)」が追記されている一文、「若年層と〜低下させるようです。」の文章を修正しました(2026年1月8日)。