チキラボでは2026年2月に行われたイランに対するアメリカ・イスラエルによる軍事行動に対する人々の意識調査を実施。中東政治や中東の社会運動に詳しい酒井啓子氏(千葉大学国際高等研究基幹 特任教授)に、その結果について考察を依頼しました。本記事は、酒井氏より寄稿いただいた文章です。

2026年3月17日〜18日実施のアメリカ・イスラエル・イラン戦争に関する緊急意識調査と、「不安の矛先は「他者化された人々」へ向かうーー米・イスラエル・イラン戦争による不安を、 誰かへのヘイトにすり替えないために知るべきこと」の記事を読んで興味深かったのは、アメリカ、イスラエル、イランのいずれの国を非難すべきか、という設問に対して、「どの国に対してもどちらともいえない」 が最も多い21.3%を示し、反対に「いずれの国も非難されるべき」も12.6%と比較的多い、という点である。このことは、事態の把握について、戦争の原因、経緯、合法性といった点で十分な理解が得られておらず、判断つきかねる、とする回答者が多いことを示しているのではないか。日本を含めた国際社会の政治経済を大きく揺るがす事態においても、背景や原因がよくわからない場合の、日本にありがちな「喧嘩両成敗」に逃げる傾向をよく表している。

「(2026.6.12訂正)不安の矛先は「他者化された人々」へ向かうーー米・イスラエル・イラン戦争による不安を、 誰かへのヘイトにすり替えないために知るべきこと」記事掲載の図
その一方で調査結果では、アメリカとイスラエルの攻撃によるイラン人民間人への殺害を許せない、という回答が7割近いこと、同国の攻撃が国際法に反すると考える回答が6割以上であること、またイランでの民衆運動への弾圧を問題視する回答も6割以上であることを見れば、原因、経緯についての一定の知識があったうえでの回答であることも見て取れる。そこでは、国際法違反の戦争行動と、国内での民衆抑圧が回答者の間で天秤にかけられており、内政不干渉に関するルール認識があいまいであることが考えられる。そのことは、空爆での相手国指導者の殺害という行為(否定的回答は36.9%)を、民間人殺害(否定的回答は68.8%)よりも是と考える回答結果からもわかる。なお、「イランの核開発の是非」を聞く選択肢が含まれていないことは、米政権がこのことを問題にして開戦に至ったことを踏まえれば、意外であり、回答者がやや困惑したのではないか。

「「自衛隊の中東派遣、拒否すべき」6割 米・イスラエル・イラン戦争に関する緊急意識調査」記事掲載の図
また、非難感情をイランに対してのみ向ける場合の回答が2%以下にとどまっているとの結果については、イスラエル・ロビーが強く、嫌イスラーム風潮の強い欧米と比較すると、おそらくかなり低いのではないか。アメリカでは、2026年2月の世論調査(Gallop)で「イランを嫌いだ」とした回答は78%、「イランの核開発は米にとって深刻な脅威だ」とする回答(2024年時点)は77%と厳しい反面、今次のアメリカの軍事攻撃については63%が「認めない」としており、ヘイトがまん延していながら自国の軍事政策を批判するというアメリカの特徴と比べると、日本の緊急調査の結果は興味深い。
最後に、上記調査結果では「イランによる民衆への弾圧が問題だ」という認識はいきわたっているのに、イランでの弾圧対象にクルド少数民族がおり、そのクルド民族(主としてトルコ出身ではあるとはいえ)が日本で難民申請をしていても受け入れられていない、という現実に結び付けて論じることができないばかりか、ヘイトの対象とされるのは残念だ。