2026年の衆院選後、「若者のリベラル離れ」といった仮説がSNSで拡散されました。この含意としては、様々なパターンがありうると思いますが、以下3つの問いについて、確認します。
- 若者は自分の政治的立ち位置を右寄り/保守寄りに位置付ける傾向が強いのではないか
- リベラルを自認している若者も、リベラル系政党に投票せず、中間〜右寄り/保守系の政党に投票しているのではないか
- リベラル系を自認する若者であっても、右寄り/保守的な考え方を持っているのではないか
※ここからはリベラル側を「左寄り」、保守側を「右寄り」という表記で統一します。
検証1:若者は自分の政治的立ち位置を右寄りに位置付ける傾向が強いのではないか
左右イデオロギーによる政治的立ち位置の評価を年代別に確認します。年代別の自身の政治的立ち位置の値の平均値は、特に有意な差はありません。どの年齢層も、「中間」に自分を位置付ける人が圧倒的に多いためです。したがって分布の全体像も、年代差が大きいわけではありません。強いていえば、若年層では自分の立ち位置を判断できない人を含む「DK」の割合が多くなっている点は特徴かもしれません。

検証2:左寄りを自認している若者が、左寄りの政党に投票せず、中間〜右寄りの政党に投票しているのではないか
検証2の分析にあたり、左右イデオロギーによる政治的立ち位置の評価を下記の3つのグループに分けました。
- 「4以下」で評価:「左寄り」
- 「5」と評価:「中間」
- 「6以上」と評価:「右寄り」
これは、ほとんどの人が自分の政治的位置付けを「中間」に位置づけ、左側、右側それぞれ回答者数が少なくなっているためです。同様に年代についても、数が少ない18〜20代と30代を一つのグループにまとめて検討します。
それぞれのグループごとに、年代別の投票先政党の投票割合を比較しましょう。若者の「リベラル政党離れが真か」を確認するため、有権者による政党の政治的立ち位置の評価をもとに、中間から右寄りに分布している政党として、自民党、国民民主党、日本維新の会、参政党、日本保守党を「中間〜保守系政党」とまとめ、この投票割合を比較します。

分析の結果、「左寄り」グループだけ、年代差が統計的に有意でした。つまり、左寄りと自認する回答者の中では、若年層ほど中間〜保守寄りの政党に投票する割合が高い傾向がみられる、という結果です。ただし、本調査のデータでは該当の回答者数が少なく、探索的結果であることに留意が必要ですが、例えば朝日新聞と大阪大学の三浦麻子教授による調査でも、リベラルを自認する10〜30代の投票先が自民党で最多となっている、という結果もあり、こうした傾向と合致します。
検証3:リベラルを自認する若者であっても、保守的な考え方を持っているのではないか
左寄りか、右寄りかで賛否が別れる傾向にある、同性婚、夫婦別姓への賛否、そして防衛・軍事政策への賛否、愛国政策への賛否について、左寄りを自認する若者の賛否を確認します。
各政策への賛否は「あなたは政策について次の意見に賛成ですか、反対ですか。あなたの意見にもっとも近い回答をそれぞれ選んでください。」との質問文でたずねています。
左寄りの若年層に該当する回答者はかなり少ないため、それぞれの値は参考値としつつ、概ねの傾向をみていきます。
ジェンダー政策:同性婚、夫婦別姓


同性婚、夫婦別姓などのジェンダー政策は左寄り層で全体的に賛成の傾向が強いことが確認できます。この中で、年代による回答差はありそうですが、若年層ほど賛成が多い、あるいは少ないとは言い難い状況です。
防衛・軍事政策



全体的に右寄りで賛成派が多く、左寄りでは反対派が多い傾向があります。特に、左寄りの中で70代以上の回答者はいずれの政策も反対派がほとんどか、賛成派が少数となっています。それに比べ、30代以下の若者では、賛成派が若干多かったり、反対派が少ないという違いはありそうです。
愛国的政策:日本国旗の損壊罪制定

愛国的政策については、年代別の差はあまりなく、右寄りに自身を位置付ける人たちで賛成派が多くなっています。
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若年層の回答者数が少ないため、左寄りを自認する若者の傾向を断定的に捉えることは難しいですが、政策に対する態度をまとめれば、ジェンダー政策や国旗損壊罪は他世代の左寄り層と大きく逸脱しない態度の一方で、防衛・軍事政策への反対傾向はやや弱い態度になっていると言えそうです。
揺らぐ「右か左か」の軸
「若者のリベラル離れ」についてここまでの検証をまとめます。
- 若年層ほど自分の政治的立ち位置を「右寄り」に位置付ける明確な傾向は確認できない
- 政策的にも従来のリベラル派の賛否動向と同様の態度を持っていることが確認できる
- 若年層の防衛・軍事政策への反対態度は他年代に比べやや緩くなっている可能性がある
- 今回の衆院選で、左寄り/リベラルを自認する若年層ほど自民をはじめとした中間〜右寄りと評価される政党へ投票する傾向が示唆
このことから、左寄りを自認する若年層の間で投票先政党に「中間〜 保守系政党」が選択されている可能性があるという意味に限れば、「若者のリベラれ離れは起こっている」と言えます。
しかし状況は複雑です。リベラル層を自認する若年層では従来のリベラル層と一致しない振る舞いが一部示唆されました。それはなぜでしょう。その問いに対し、そもそも社会全体で、この左右イデオロギーの軸が共有されなくなりつつあるのではないかという観点から、新たな政治的対立軸を検討する試みも進んでいます(秦 2023)。
検証1で示したように、若年層でも質問すれば左右イデオロギーの軸上のどこかに自身を位置付け、DKが著しく高いわけでもありません。そのため、一見すると、左右イデオロギーのどこかに若者の認識も分布しているように見えます。
しかし、左右イデオロギーという軸が、投票行動に強く影響するわけではないことは検証2で、リベラル自認層で若年層ほど中間〜保守系政党を選択する傾向が観察されたことからも示されます。
また、「リベラル」な人だからといって、「リベラルな政党」に入れるとは限りません。人には様々な投票動機があります。「受け皿」として今のリベラル系政党が「遠い」と感じられれば、わざわざそこに投票することはないでしょう。投票動機を刺激する有力な政党として育っていないこともまた、こうした結果の背景にあるのかもしれません。
「若者のリベラル離れ」とされるものは、「リベラル系政党のリベラル系若者離れ」なのかもしれません。というより、そもそも「リベラル系政党が、かつてはリベラル系若者を獲得していた」という前提がないのであれば、「〜離れ」という表現も誤りと言えるでしょう。
【引用文献】
秦正樹 2023「『改革』的な政策とはなにか?ーコンジョイント実験による検証」『年報政治学2023-Ⅱ』, pp.294-320. https://doi.org/10.7218/nenpouseijigaku.74.2_294